『橘姓斑目家の歴史 古代・中世編』
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105第5章 橘諸兄、逸勢そして嘉智子皇后クリートで雑に固められた有り様だ。ちょうど住家から主婦が出てきたので、石柱の由来など聞いてみたが、全く知らず関心もない様子。日本史の教科書でいまも名高い人物も、現世の日常の中ではとっくのむかしに……といった印象だ。この逸勢の父・入いるい居と嘉智子の父・清友は兄弟である。逸勢と嘉智子は従兄弟同士として、8世紀末から9世紀半ばの同じ時代を生きた。橘氏が奈良麻呂の乱をきっかけに没落し始めた時代の雰囲気と、一族の期待を担う嘉智子の役割を印象的に伝える情景を、杉本苑子の小説『檀林皇后私譜』から引用しよう。高津内親王と結婚している神かみ野の王子(のちの嵯峨天皇)に遅れて嫁ぐことになった嘉智子に、逸勢が複雑な思いを持って意見している。――「高津内親王とあんたとは、身分に開きがありすぎる。あちらは今上天皇桓武を父に持つ歴れっきとした皇女――。同様、桓武帝のお子に生まれた神野王子とは、腹ちがいの姉弟でいて結ばれた仲だ。この先あんたをはじめ、王子は幾たり妃を持つか知らないが、初恋

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